第12次研究委員会 最終報告

「ささえる」から「参画」へ

~学校事務職員の標準的職務~

H20.10最終報告会員配信データ(PDF) (1.08MB)

1.はじめに

私たち学校事務職員をとりまく状況は目紛しく変化しています。教育行政はまさに変革の時代です。そのうねりは既に学校にも押し寄せ、急激とも言える変貌を続けています。あらゆる考え方やあり方が検証される中、変えなければならないもの、変えてはいけないもの、その双方をしっかりと見極めていく必要があります。これからの学校に求められているものは何か、児童生徒・家庭・地域の思いにどれだけ応えることができるのか、学校から何を発信していくのか。学校という組織体を考える時、私たちの担う役割と責任は、ますます重要なものになると思われます。

折しも石川県小中学校教育事務研究会が発足して50年目という節目を迎えた今、私たちはこの大きなうねりを次の時代への幕開けと捉え、諸先輩方の知恵と教えを大切な財産とし、新しい事務職員像を創造していかなければなりません。

2.研究のコンセプト

今、学校に求められているのは、経営のセンスと機動的な組織、明確な目標設定とその成果です。学校経営ビジョンによる未来像・方向性が求められ、ビジョンの実現に向けた具体的な計画と、それぞれの職の明確化と連携の強化が必要となっています。学校経営の中心は教育課程の編成・実施・評価ですが、予算執行・設備等改善・組織運営等、いわゆる経営一般とされる分野では、私たち事務職員が力量を発揮できる場面が多いのではないでしょうか。これからは、教育活動をささえる視点にとどまらず、組織としての力をより向上させるにはどうするか、という視点を持つことが重要になります。また、地域間や学校間で子ども達が受ける教育の質に大きな差が生じないよう、学校の全職員は、その豊かな育ちを最大限に保障する責任があることに変わりはありません。ただ残念ながら現在、事務職員の職務内容が明示されていないこともあり、各学校における職務内容についての認識は共通しているとは言えません。加えて個々の事務領域については事務職員それぞれの経験的知識が反映することもあり、属人的にその領域が決まっていくという現状があります。個々の経験を個々が活かすだけではなく、その知識や技能・情報を共有化することにより、全体としての暗黙知(経験的知識)の向上を図るとともに、スタンダードな職務内容の共通認識と事務処理等の規定化を更に進めることにより、形式知(マニュアル等による事務処理方法の知識)の向上を図ることも重要です。

研究委員会では、以上の見解に基づき、研究のキーワードは「参画」、これから私たちが目指すのは「学校経営に参画する事務職員」であるとし、その姿に迫るため考察を進めることとしました。

3.目指す事務職員像へのシフトチェンジ

「学校経営に参画する」と聞いたとき、ハードルが高くて前に行くのは難しそう、といった不安がまず心に浮かぶのではないでしょうか。「学校経営に参画する」とは何を指すのか、掴み所がないような漠然としたその輪郭を少しでも明確にするため、研究委員会では、3つの視点から考察を進めました。

1点目は、職務領域から考える「参画」です。

「自分は学校組織の一員であり、職務の原点は子ども達にある」と自覚した時から始まる参画への第1歩。組織全体にかかる課題を把握したりその改善の提言をしたりする自分の姿は、なかなか想像できないかもしれませんが、実は誰でも可能なのです。大切なのは、「未来の自分」のイメージを持つことです。もっと素敵な自分になりたい、これだけでよいのです。そしてこれは永遠の目標ではないでしょうか。

今次研究委員会では、第10次研究委員会による「教育活動をささえる学校事務職員の標準的職務表」(h14.10提示)を基に、経験年数による職務の深化を加味した一覧表を作成しました。自分のペースでスモールステップを重ねながら徐々に職務を深化させましょう。

(資料A「ステップアップ職務標準」)

2点目は、職務遂行能力から考える「参画」です。

私たちには職務を遂行する上で様々な能力や意欲が求められます。実務処理がどれだけ正確・迅速であっても、それをもって参画の意識が高いとは言えません。これから私たちが目指すのは「学校経営に参画する事務職員」です。組織の意志決定に携わる経営スタッフとなるには、アイデアの提供や発想の転換・状況の分析と的確な判断・人材の育成支援などの能力を高める必要があります。

研究委員会では、各事務領域に共通する能力・意欲を、学校経営への参画という視点で捉え直し、10項目の観点にまとめました。更に、参画の場面を、各自の事務機能向上・学校組織全体の充実・学校内外の組織体制の強化、とし、想定する行動の内容をいれた、観点別の一覧表を作成しました。4段階評価の自己評価欄に記入することにより、自分の傾向を知ることができます。定期的にこの表を利用し、参画の幅を広げていきましょう。

(資料B「参画への観点別行動~自己チェックシート~」)

3点目は、事務経営から考える「参画」です。

学校長の学校経営ビジョンに基づき、教育目標の達成を目指す。これは学校の普遍の目標であり、教員や私たちを含む全職員は、子ども達の教育を保障しその育ちを支援するために、学校に存在しています。学校の主人公である子ども達を輝かせる手だてに違いはありますが、教育目標の達成という同じベクトルを持つ職員集団が学校という組織です。

研究委員会では、私たちが事務経営において大切にしている考え方や、教育目標の達成に向けての取り組みなどを明文化したものを「事務経営案」とし、モデル案を作成しました。また、成果と課題を記入するシートも作成し、経営サイクルが機能するようにしました。併せて、今まで解釈が曖昧だった、「事務経営案」および「事務運営計画」の定義も提示しました。与えられるのを待つだけではなく、より主体的な事務経営に取り組みましょう。

(資料C「学校事務経営案及び実践と評価~ふりかえりシート~」)

4.未来へ

教育をめぐる情勢の変化は速く、平成20年4月1日の学校教育法の改正により、石川県内の一部の大規模校には、新たな職「副校長」「主幹教諭」「指導教諭」が配置となりました。その職務は第37条によりそれぞれ、「校長を助け、命を受けて校務をつかさどる」「校長及び教頭を助け、命を受けて校務の一部を整理するとともに、児童生徒の教育をつかさどる」「児童生徒の教育をつかさどるとともに、他の教諭等に対して、教育指導の改善・充実のために必要な指導・助言を行う」とされました。学校の組織運営体制や指導体制充実を図ることがこの新しい制度の目的です。石川県教委広報紙により、新しい職を組み込んだ学校組織の例も示されました。今後各学校において組織体制の改善が進むことが予想されます。学校組織体制のリニューアルは、私たちがアイデアを提供できるよい機会ではないでしょうか。学校経営のスタッフとしてその機能を果たすチャンスと考えます。

過日、各研究委員は所属の学校長に、この間の研究委員会の報告として今までの資料をお見せし、それぞれにアドバイスをいただきました。その一部を紹介します。『事務職員の方はいろいろな場面で参画しているし、そうすべきであると認識している。新しい職も増え、不安な思いもあるかもしれないが、これからも自信を持ってどんどん参画していってほしい』『ステップアップ職務標準は経験年数ごとになっているので、新しく事務職員になった人にも、将来の自分の姿が見えてよい』『参画への観点別行動~自己チェックシート~は、よくできている、参考にしたい』『教諭の頃は事務職員の方の仕事についてはあまりわからなかったが、管理職となってから理解できるようになり、大変な仕事だと認識している。これからも積極的に学校経営に意見を出してほしい』この他にも、私たちの背中を押してくれるご意見を多く頂戴し、本当に嬉しく思いました。特に、学校経営への参画について、全員の方が、そうあるべきだ、積極的に参画を、とのご意見だったことをご紹介しておきたいと思います。

研究委員会では、皆様ひとり一人が実践するときの資料として活かせるものを創ることに重点を置いてきました。「参画」への3つの視点、「職務領域」「職務遂行能力」「事務経営」。これらの視点から考察をすすめた結果である「ステップアップ職務標準」「参画への観点別行動~自己チェックシート~」「学校事務経営案」。皆様の瞳にはこれから私たちが目指す、「学校経営に参画する事務職員」の姿が、以前と比べて少しは明確になって写っているでしょうか。これまで報告してきたもの全てが、ひとり一人の思いと合致することはないかもしれませんが、「参画する」ことがより具体的に思えるようになったとしたら幸いです。各地区研究会においても、これらの資料をおおいに活用され、「参画」の意識を深め、実践していただきたいと思っています。

学校の主人公である子ども達を乗せた大きな宇宙船、クルーは学校にいる大人達、目的地は子ども達の未来。長い航海にはいろいろなことが起こります。嬉しい出来事や楽しいことばかりではありません。心が折れそうになったり、解決できそうにもない難題も発生します。でも大丈夫です。どんな時も、どんなことがあっても、いつも私たちは子ども達の笑顔から元気をもらってきました。その笑顔とともに、未来に向かって、出航です。 

 

H20.10最終報告会員配信データ(PDF)

コメント